東海タナゴ研究会は、田んぼの横っちょで生きのこってきた淡水魚「タナゴ」を中心に、ふるさと活動をしています。
ここでは、タナゴをとおしての里川の生物多様性について書いています。
人々は昔から自然の近くに住んで、水田や畑などをつくって生活してきました。その中にもたくさんの生態系があります。
里川とはこのような、自然と人間との関わりが大きな環境のことをいいます。
たとえば水田は、河川の洪水でつくられる、水のはんらんが起こる場所に似ていて、そのような場所が好きな生き物が住んでいたりします。
しかし、最近ではダムなどができて、そういった効果が起こる環境が少なくなっています。それといっしょに、そのような場所が好きな生き物もだんだん少なくなってきています。
そのような場所は、生物多様性保全にとって貴重な場所になりました。
里川というのは、その地域に合った管理がされてきて、そこにある生態系もさまざまで、同じものはありません。それは、その地域の個性であるといえます。
その個性を守ってきた歴史は、地域の文化でしょう。
身近な里川の文化を守ることは、その文化を受けついでいくことでもあり、世界の生物多様性や生態系を保全していくことにつながります。
生態系・生物
「個体、遺伝子の多様性」、「種の多様性」、「生態系の多様性」をふくむものとされています。
ヒトやその他のすべての動物、植物、プランクトンやバクテリアもすべてふくまれます。もちろん、魚もその中に入ることがわかります。
しかし、開発による生き物の生息地の破壊や、社会の変化によって人の自然への関わりが少なくなったり、外来生物による生態系のかく乱という3つの大きな理由により、とても危ない状況になっています。
たくさんのさまざまな生き物が存在することは、人にとっても良いことです。そして、地域の文化や個性として、大きな価値のあることです。
生き物たちがおたがいに助け合って生きていくこと。どのような場所にも存在します。
例:生態系について (タナゴと二枚貝とヨシノボリ)
たとえば、タナゴのすむため池の変化があります。
農業の発展によってため池と人との関わり方が昔と変わってきました。
例:ため池の池干しとタナゴ
外来生物というのは、日本にいる生き物に悪影響をあたえます。
例:外来種のもんだい
同じ種類の魚なのに、住んでいるところによって、顔や色や形がいろいろ
二枚貝に産卵する変わった魚
田んぼの横っちょ、近所のため池や水路で生きる身近な魚
瑞穂の国の構成員・・・ふるさと活動のキーになり得る淡水魚...
コイ科の淡水魚。写真はアブラボテというタナゴです。
体長約5〜10センチの小魚です。種類によって、大きさもさまざまです。
ぜんぶで14種類のタナゴのなかまがいます。
昔は、川でよく見られました。
今では、水路やため池などがおもなすみかになっています。
タナゴは、川では「洪水」、ため池では農家の人たちによる「ため池の水抜き」などのある、水の大きな動きが起こり、水が新しくなっていく場所が好きなようです。
タナゴは二枚貝に産卵するめずらしい魚です。
産卵の季節になるとオスにきれいな婚姻色があらわれ、メスには産卵管とよばれる長い管がおしりからのびてきます。
タナゴのメスは、産卵管を二枚貝の入水管(にゅうすいかん)というところにさしこんで、貝のえらに卵を産みつけます。
卵は二枚貝の中でふ化します。
そしてその中で少し大きくなってから、二枚貝から泳いで出てきます。
産卵の季節になると、オスの体がきれいに色づきます。これを婚姻色と言います。
オスはメスに自分をアピールするために、きれいな婚姻色をあらわすのです。
タナゴの世界では、よりきれいな婚姻色をあわらすタナゴのほうが人気のようです。
同じく、産卵の季節になると、メスにも変化がでてきます。
メスのおしりからのびているのは、いっけんタナゴの"ふん"のように見えますが、産卵管といって、卵を産むための管なのです。
日本には、ぜんぶで14種類のタナゴが確認されています。
しかし、そのすべてが国や都道府県のレッドデータブックにのっています。
レッドデータブックとは、絶滅のおそれのある野生生物について書かれたもののことです。
タナゴは希少種といって、生きている数が少ない生物なのです。
ため池や里山の管理不足から、二枚貝が減ってしまっています。
二枚貝がいなくなると、タナゴは卵を産むことができません。
そのため、タナゴも減ってきているのです。
また、外来魚が放流されてしまうことも問題です。
現在の農業が発達したため、昔と比べてとても楽になりました。
ため池や里山の管理をしなくても、農業をしていくことができるようになったのです。
そのため、ため池の水抜きという作業がなくなってしまいました。
そうなると、ため池にドロがたまって、二枚貝が生きていけなくなるのです。
ため池についてはこちら
他の地域から持ち込まれた生物のことです。
外来種がやってくると、もともとそこに住んでいた生物に影響がでます。
たとえば、タナゴはブラックバスに捕食されてしまうなどです。
外来種についてはこちら
タナゴは、このようにふしぎな魚です。
一般的に希少な生き物を守るということは、その生き物の暮らしのじゃまをせずに、「そっとしておこう」という守り方が多いのですが、タナゴは違います。
タナゴは、人の暮らしの中にある自然の中で生きてきたのです。
「そっとしておこう」と、ほうってしまっていたら、タナゴはいなくなってしまうかもしれません。
人が生きるために作った水田やため池に住んで、農作業によって守られてきたこの魚は、人といっしょに生きてきたのです。
人が手を加えることが、タナゴの保全に必要なのです。
このようにして、タナゴは地域の人たちが守ってきた魚です。
そして、その地域によって顔も違う魚です。
タナゴはふるさとの象徴となる淡水魚です。
タナゴを保護していくためには、タナゴだけでなく、二枚貝やヨシノボリなどの他の魚、それぞれのエサになる生き物など、これらが生きていける環境をも守っていくことが必要です。
日本在来のタナゴの仲間は、ため池や川にすむ二枚貝に産卵します。
タナゴは、産卵の季節になるとオスにきれいな婚姻色があらわれ、メスには産卵管という長い管がおしりからのびてきます。
タナゴのオスは、産卵によさそうな貝をみつけると、他のタナゴをおいはらって、そのまわりになわばりをはります。
オスは卵をもったメスを自分の貝のところにつれてきます。
産卵をするとき、タナゴのメスは産卵管を貝の"入水管"にさしこみ、貝のえらに卵を産みつけます。
メスが卵を産むと、オスは貝のまわりで精子をだし、卵は貝の中で受精します。
なぜ、タナゴは貝の中に卵を産むのでしょうか?
それは、卵は逃げることができないので、他の魚にねらわれてしまうからです。
しかし、タナゴの卵は貝に守られているので、他の魚がきても食べられません。
卵は貝の中でふ化します。
タナゴの赤ちゃんは、貝の中で泳げるようになってから出てきます。
全てのタナゴ類が繁殖するためには、二枚貝がぜったいに必要なのです。
二枚貝も、繁殖するときに他の生き物を利用します。
メスの二枚貝は、自分のえらに卵を産みます。
卵は、グロキディウムとよばれる赤ちゃんになり、お母さん貝から出てきます。
二枚貝の赤ちゃんには、よく見るとキバのようなものがついています。
そのキバで、まわりにいる他の魚にくっつきます。
おもに、ヨシノボリなどのハゼ科の魚のえらにくっつきます。
くっついた貝の赤ちゃんは、魚の体液を吸って成長していきます。
大きくなると魚から離れて、川などの底の方で生きていくのです。
二枚貝が繁殖するためには、ヨシノボリなどの他の魚がぜったいに必要なのです。
このように、生き物はお互いに利用し合って生きています。この関係を「生態系」といいます。
タナゴはため池などをおもなすみかにしています。
ため池は、定期的に池干しをすることにより、二枚貝が住みやすいきれいな水になります。
そうして、タナゴと二枚貝は生きてきました。
里山の自然は、人が手を入れてきたからこそ健全な生態系が保たれていたのです。
昔の農家の人たちは、水田に水をひくためにため池をつくりました。
池はほうっておくと、植物が生えてきたり、泥がたまったりします。
そうなると、ためられる水の量が減ったり、水質が悪くなったりして、おいしいお米ができなくなります。
そこで農家の人たちはため池の良い水を保つため、定期的に池干しをして、きれいなため池を管理してきました。
池干しは、古くから伝わるため池の管理方法です。
まわりに生えていた草は、牛のエサになりました。
池の底を抜いて、泥は田んぼの肥料になります。
とれた魚は、みんなでごちそうです。
水を抜いている間に、ため池の修理をします。
池をかわかしたあと、きれいな水をひきます。
池干しをしたため池は、泥が減って、水がきれいになり、生き物もよろこびます。
現在ではダムができて、農業にとってため池は大切でなくなりました。
農業が機械化され、農家が少なくなりました。
池干しはあまりされなくなってしまいました。
泥がたまって、貝がいなくなります。
貝がいないと、タナゴは卵を産めません。
外来魚が放流されて、増えてしまいます。
そうなると、タナゴがいなくなってしまいます。
池の貴重な生き物を守るため、ため池の池干しをします。
増えてしまった外来種の駆除をします。
タナゴや貝を救助します。
しばらく池をかわかすと、泥が減ります。
そのあと水を入れて、タナゴや二枚貝を元の池にもどします。
新しい池干しには、農家の人、地域の人、子どもたち、生き物の専門家や学生、都会の人、そしていろいろな国の人たちがいっしょにおこなっていけることを願います。
里山の生物多様性は、みんなの力で守っていきます。
外来種とは、他の地域から持ちこまれた生物のことをいいます。
外来生物は、もともとそこにいた在来の生物にさまざまな悪影響をおよぼします。
捕食・競合・交雑という問題は、生物多様性への影響をおよぼすことになります。
在来生物は、急に入ってきた外来生物に対して、防御機能を持っていない場合が多いのです。
敵が近付くと、どこにかくれたらいいのか、どのようにして逃げればいいのか、生物は遷移的にそれらを知っているはずなのですが、急に入ってきた外来生物に対してはそれがわかりません。
タナゴのいる池などにブラックバスが放流されると、ブラックバスはタナゴを食べてしまいます。
アメリカザリガニは二枚貝を食べてしまいます。
最近、日本の池にはこういった外来生物がよく見られます。
もともとそこにいた在来生物は、外来生物によって捕食され、数が減ってきているのです。
同じ生息地により強い力を持つ外来生物が入ってくると、在来の弱い生物は生きていくことができなくなってしまいます。
生き残った強い外来生物はどんどん子孫をつくり、その生息域に広がっていきます。
本来、同じ種類の生物は、自分と同じ種類の生物と子孫を残します。
しかしまれに、自分と近い遺伝子を持つ外来生物との間に子どもをつくってしまうことがあり、あらたな雑種が生まれてしまいます。
これでは、遺伝的なかく乱が起こってしまいます。
たとえば、「ニッポンバラタナゴ」とよく似た外来魚「タイリクバラタナゴ」がいます。
この2種での交雑が広がり、今では純粋なニッポンバラタナゴの生息地は少なくなり、ニッポンバラタナゴは絶滅のおそれにあります。
外来生物は人の手によって持ち込まれた生物のことです。
ルアーフィッシングのために、ため池などにわざとブラックバスを放流してしまう人がいます。
ブラックバスは肉食魚であり、そのため池にいる魚を食べてしまいます。
捕食によって減っていく在来生物は、いずれ絶滅してしまいます。
在来生物の保護のために、ため池の管理として、釣りを禁止している場所でも、ブラックバスの密放流は確認されています。
在来生物の絶滅につながるおそれがあるなど、生態系に与える影響が大きい種を、侵略的外来種といいます。
わたしたちは生態学的調査に基づき、在来生物の保護のため、その池から侵略的外来種である外来生物を駆除しています。
外来生物を飼うときは捨てないでちゃんとさいごまでいっしょに暮らしてください。
外国と日本の間だけでなく、同じ日本の違う地域の生き物の導入もしてはいけません。
文 : 峯 和也
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